先日、営業員不足から、事務に従事していたBを営業員として派遣した。
通常、営業員には営業手当を支給しているが、臨時に営業員となったBに対しても営業手当は支給しなければならないか?
また、Bに営業手当を支払った場合、その額は割増賃金の算定基礎に入れなければならないか。
事務員であるBさんが営業を行ったとのことですが、まず、Bさんに営業手当を支払わなければならないかということについては、営業員に対して支給している営業手当が文字通り営業を行うことに対して支給されているものであるならば、Bさんに対しても営業手当を支給しなければなりません。
また、この場合の割増賃金の算定基礎への算入については、Bさんが営業員として時間外労働を行った場合には、営業手当を含む賃金を時間外労働の算定基礎としなければなりませんが、事務員としての業務について時間外労働を行った場合には、この時間外労働の算定基礎に営業手当を含む必要はありません。
平成30年、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」により労働基準法等の改正が行われ、労働時間の規制にかかる関係条文が大幅に改正されました。その中で時間外労働にかかる労使協定(いわゆる三六協定)の要件および届出様式などが多面的に変更され、平成31年4月1日から適用されていますので、注意が必要です。なお、中小企業における時間外労働の上限規制にかかる改正規定の適用は令和2年(2020年)4月1日から施行されています。
なお、平成30年の労基法改正による改正後の労働基準法の解釈について解釈通達が発出されており、さらにQ&Aやリーフレットとして「時間外労働の上限規制わかりやすい解説」が厚生労働省ホームページで公表されています。
時間外労働の上限規制関係の内容として、三六協定の対象期間や延長期間について、届出・様式の運用について、適用が猶予される中小企業の要件について、適用猶予業務の範囲についてなど多岐にわたっています。
この適用猶予業務についてですが、時間外労働の上限規制について特定の事業等にその適用が5年間猶予されることと定められていました。その猶予期間が経過して、令和6年4月1日から適用されることとなりました。その適用猶予事業・業務とは、工作物の建設の事業、自動車運転の業務、医業に従事する医師、鹿児島県および沖縄県における砂糖を製造する事業の4種です。時間外労働にかかる適用に際して、相応する三六協定届様式の変更・新設がありますので、注意が必要です。
<POINT1.通常の業務と異なる業務に従事した場合の賃金>
職務上異なる作業に従事した場合、たとえば事務員が営業の業務に従事するような場合に、事務員に通常支払われている賃金を支給するべきか、それとも営業員に通常支払われている賃金を支給すべきかが問題となります。事務員にとっては、その業務は通常の業務と別個の労働となるわけですが、賃金については、その額が最低賃金法による最低賃金額を下回らない限り当事者が自由に定めることができるものです。この場合、賃金を営業員に対して支払っている賃金を基準として支払うか、本人の通常の業務である事務員としての賃金と同額にするかについても、自由に定めることができますので、予め定めておくべきと考えます。
しかし、事務員が営業の業務に従事する場合の賃金に関する特段の約定がなく、営業員については事務員の給与に加えて営業手当が支給されているような場合には、このような営業手当は営業に従事することについて支給されているものであると解すべきであり、事務員が営業に従事した場合には当該事務員に対し営業手当を支給すべきであると考えられます。
<POINT2.割増賃金の基礎となる賃金>
労働基準法などでは、使用者が労働者に法定の労働時間をこえて労働させた場合には、通常の労働時間または労働日の賃金の計算額に、時間外労働については
- 1か月45時間以下の時間外労働に対しては2割5分以上の率
- 限度時間(1か月45時間、1年360時間など:同法第36条第4項)をこえる時間外労働に対しては2割5分をこえる率(努力義務)
- 1か月60時間をこえる時間外労働に対しては5割以上(※代替休暇を付与する場合は2割5分以上)の率で、休日労働においては3割5分以上の率
で、計算した割増賃金を支払わなければならないとしています。
※代替休暇を取得した場合に支払うこととされている割増率は2割5分以上で、労使協定で定めることになります。
また、割増賃金の基礎となる賃金には通常の労働時間または労働日の賃金であればすべてを算入しなければならないというものではなく、労働基準法第37条において家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しないとしており、この「厚生労働省令で定める賃金」とは、労働基準法施行規則第21条において別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金および1か月をこえる期間ごとに支払われる賃金と規定しています。これは、労働とは直接関係のない個人的事情にもとづいて支払われる賃金を除くという観点などから規定されたものですが、これら7種類の賃金は限定的に列挙されたものと解されますので、「通常の労働時間または労働日の賃金」であって、これらの賃金のいずれにも該当しないものは、すべて割増賃金の算定基礎に算入しなければなりません。また、これらの賃金に該当するか否かは、名称の如何にかかわらず「実質」によって取り扱うこととされています。
<POINT3.通常の業務と異なる業務に従事した場合の割増賃金>
お題の様に、事務員が営業に従事し、営業手当を含む賃金を支給されている場合の割増賃金における「通常の労働時間または労働日の賃金」ですが、営業に関する時間外労働を行った場合には、営業手当を含む賃金が時間外労働の算定基礎となり、通常の業務である事務に関する時間外労働を行った場合には、営業手当を含まない賃金が時間外労働の算定基礎となります。
また、通常の労働時間には事務員として働き、時間外労働についてのみ営業員としての業務に従事するような場合においても、この時間外労働については、営業手当を含む賃金が割増賃金の算定基礎となります。
一方、事務員の不足により営業員が事務員の業務に従事した場合の時間外労働については、その算定基礎に営業手当を含まなくてもよいのかということとなりますが、このような場合には割増賃金の算定基礎である「通常の労働時間または労働日の賃金」に営業手当を含む必要はありません。
<POINT4.割増賃金の計算方法>
割増賃金の額は、通常の労働時間または労働日の賃金額に、時間外労働の場合は
- 1か月45時間以下の法定時間外労働に対しては2割5分以上の率で、
- 限度時間(1か月45時間、1年360時間など:労働基準法第36条第4項)をこえる法定時間外労働に対しては2割5分をこえる率(努力義務)で、
- 1か月60時間をこえる法定時間外労働に対しては5割以上の率(※代替休暇を付与する場合は2割5分以上の割増率)で、また午後10時から午前5時までの深夜に労働させた場合には2割5分以上の率(法定時間外労働と深夜労働が重なった場合は両方を足した率で5割~7割5分以上の率)で、また法定休日に労働させた場合には3割5分以上の割増率で、
その率に割増賃金の支払いの対象となる時間数を乗じて計算されます。
※代替休暇を取得した場合に支払うこととされている割増率は2割5分以上で労使協定にて定めることとなります。
割増賃金の計算額を算出するためには、まずその基礎となる賃金の時間あたり金額を算出し、これに割増賃金支給の対象となる労働時間数を乗ずることが必要ですが、割増賃金の基礎となる賃金には月給、請負給など種々の形態があるため、労働基準法施行規則第19条に、通常の労働時間の賃金の計算方法についてかなり詳細な規定が置かれています。
<POINT5.時間外労働を行わせるための要件>
ところで、法定の労働時間をこえて労働させることができるのは、労働基準法第33条に規定されている災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要のある場合に所轄の労働基準監督署長の許可を受けたときまたは非現業の官公署において公務のため臨時の必要がある場合を除いては、労働基準法第36条に規定されるように、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定(いわゆる三六協定)をし、これを所轄の労働基準監督署に届け出た場合に限られています。
<POINT6.働き方改革による改正>
三六協定の作成には次の点に留意する必要があります。
①時間外労働の上限規制について
…従来は大臣告示により示されていましたが、平成30年の改正では労働基準法第36条の条文内に取り入れられました。限度時間は原則1か月45時間、年間360時間と法定されました。また、限度時間をこえる時間外労働を設けるもの(特別条項)は同条に別途法定されています。
②三六協定により時間外・休日労働を行わせる場合にあっても次の規制があります。
イ.坑内労働その他の健康上特に有害な業務について1日あたりの時間外労働時間数は2時間をこえないこと。
ロ.1か月の時間外・休日労働時間数は100時間をこえないこと。
ハ.2か月ないし6か月における時間外・休日労働時間は1か月あたりの平均時間が80時間をこえないこと。
③三六協定の届出様式について
…特別条項の記載がない通常の時間外・休日労働にかかるものは労働基準法施行規則様式第9号により、特別条項を設定する場合は様式第9号の2により、また、適用猶予・除外の事業・業務にかかるものについては様式第9号の3の2から第9号の5までとされています。
④限度時間については
…「1日」、「1箇月」、「1年」のそれぞれの期間について労働時間を延長して労働させることができる時間または労働させることができる休日の日数を定めることとされています。
⑤労働基準法施行規則様式第9号から第9号の5の下欄右
…チェックボックス「□」が設けられていて、そのチェックボックスにチェックがない場合は、法定要件を欠くものとして無効になるとされました。
⑥協定の期間は、1年間を上限とすること。自動更新は適用されません。
⑦届出にあたって必須とされている「過半数代表者」について
…「イ」管理監督者には該当しないこと、「ロ」㋺労働基準法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票・挙手等による手続により選出された者であること、「ハ」、「ロ」㋺の場合に使用者の意向にもとづき選出された者でないこと、との要件が定められています。
<POINT7.女性、年少者についての時間外労働などの制限>
労働基準法は、週40時間、1日8時間制(特例措置対象事業場については週44時間)を定めており、一定の要件を満たして時間外労働を行わせる場合においても、女性、年少者にも広く認めることは、その健康および福祉に害を及ぼすことにもなりますので、これを認めず、あるいは一定の制限をしていましたが、満18歳以上の女性についての規制は、平成11年3月31日をもって廃止されました(なお、労働基準法第66条第1項および第2項により、妊産婦にかかる時間外労働については、引き続き制限されています。)
<POINT8.育児や介護を行う労働者にかかる時間外労働の制限など>
育児・介護休業法では、働きながら子の養育または対象家族の介護を行うための時間を確保することができるよう時間外労働を制限する制度が設けられています。
具体的には、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者がその子を養育するために請求した場合または要介護状態にある対象家族を介護する労働者がその対象家族を介護するために請求した場合においては、事業主は、労働基準法第36条第1項の規定により時間外労働をさせることができる場合であっても、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、1か月について24時間、1年について150時間をこえる時間外労働をさせてはならないというものです。
ただし、日々雇い入れられる者や次に掲げる労働者は請求できないこととされています。
- 当該事業主に引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者
- その他請求できないこととすることについて合理的な理由があると認められる労働者
これは、1週間の所定労働日数が2日以下の労働者をいいます。
また、平成22年6月30日より、3歳に満たない子を養育する労働者が請求した場合は、事業主は所定労働時間をこえて労働させてはならないとする制度が義務化されています。
※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※
≪参考となる法令・通達など≫
- 労基法24条、33条、36条、37条、133条
- 育児・介護休業法16条の8、16条の9、16条の10、17条、18条、23条、23条の2、24条
- 労基則6条の2、16条、19条、19条の2、21条、25条の2
- 育児・介護休業則52条
- 平30.9.7厚労告323
- 平30.9.7基発0907第1
- 平30.12.28基発1228第15改正労働基準法に関するQ&A(平31.3厚生労働省)
