当社の年次有給休暇中の賃金については、就業規則で、「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」となっているが、年次有給休暇を取得した場合、通勤手当についてはどのように取り扱えばよいか。
会社として、通勤手当を支払うかどうか、支払いの基準をどうするかは自由に決められます。
つまり、通勤手当ゼロとすることもできます。また、支払う場合は、実費分とか、非課税の範囲内とか、定額にすることもできます。そこで、お題の場合も会社の方針として「出勤しない日の通勤費はゼロ」としていれば、年次有給休暇(年休)を取得した日は実際には出勤していないので、その日の通勤手当は支払いなしとすることもできます。
このように、通勤手当の支給は使用者が任意に決められますが、支払うことを就業規則等で明確にした場合は労働基準法第11条の賃金に該当しますので、賃金の一部となり取扱いには注意が必要です。
<POINT1.年休取得時に支払うべき賃金とは>
労働基準法第39条第9項で年次有給休暇(年休)を取得した日(時間)については、
- 平均賃金
- 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
- 健康保険法による標準報酬月額の30分の1に相当する金額
を支払わなければならない、と規定されています。なお、平成22年、「時間単位年休」が定められたことから、その年休に対しても相応の時間賃金の支払いが必要となります。
一般的には2.の「通常賃金」により支払われるケースが多い印象です。
<POINT2.3種の賃金に通勤手当は含まれるのか>
はじめに、年休取得時に支払うべき賃金とされている3種類の賃金と通勤手当との関係をみますと、次のとおり、通勤手当が含まれていることがわかります。
(1)平均賃金
平均賃金の計算は、算定すべき事由が発生した日以前の3か月間の賃金総額を、その期間の総日数(歴日数)で割って算出します。平均賃金の趣旨は、労働者の通常の生活を保障しようとするものなので生活賃金といわれるすべての賃金が算定の対象となっており、原則的に労働基準法第11条に規定するすべての賃金が含まれます。算入される賃金には時間外手当、通勤手当等々がありますが、除外される賃金として、結婚手当等臨時に支払われた手当、年2期払等の賞与、現物給与等の賃金があります。
(2)標準報酬月額の30分の1
健康保険の保険料・諸支給手当の額を計算する元となる金額で、これの算定には給料、時間外手当、家族手当、通勤手当などの労務の対象として被保険者に支払われるすべてのものが含まれています。
ただし、平均賃金と同様の趣旨から、3か月の期間を超えて支払われる賞与や結婚祝い金のような臨時に支払われるものは除外されます。
なお、年休取得時の賃金とする場合には、事業場ごとに過半数労働組合、それがなければ過半数労働者代表者を選出して協定を締結しておかなければならないことに留意してください。
(3)通常賃金
年休取得時に支払われる賃金について、労働基準法施行規則第25条に「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金は」として計算の方法が規定されていますが、通勤手当等の手当の取扱いについて規定されていません。
行政通達では、「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金には、臨時に支払われた賃金、割増賃金の如く所定時間外の労働に対して支払われる賃金等は、算入されないものであること」との説明があります。
年休取得時の「通常賃金」については、同規則の計算方法および同通達の趣旨により算定されることとなります。つまり、同通達の「臨時に支払われた賃金等」とは、平均賃金を算定する上で除外される手当等をいい、先の説明のとおり通勤手当は除外されていませんので、通常賃金に含められることになります。
<POINT3.まとめ>
お題の場合、年休取得日には「通常賃金」での支払いをしているとのことですが、通勤手当については控除することなく支払うこととして問題はありません。ただし、通勤手当の取扱いについては、次のような留意点があります。
(1)賃金の支払形態による違い
賃金支払形態が日給制の場合には、通勤手当は通常「出勤した日に支払う」として「年休取得日は出勤していないので通勤負担はなかった」として支払われていない例があります。もっとも、この場合には就業規則等であらかじめ明文化しておくことが必要です。
次に、月給制の場合は、通勤手当についても月単位で支給している例が多いことから、年休取得日について相当日分の通勤手当を控除するなどの処置はしていない例が多いようです。
(2)二重払いについて
先ほど触れたように、平均賃金、通常賃金、標準報酬月額の30分の1のいずれの賃金においても算定項目に通勤手当が算入されています。
そのうち、年休取得日の賃金を平均賃金による支払いとした場合、年休取得日の通勤手当を控除しないときは、通勤手当相当額を二重に支払うことになります。この場合は、その相当額を控除することもできます。行政通達では「年次有給休暇に対しては平均賃金を支払う場合において、当該年次有給休暇日に関し、月又は週によって支給される賃金があるときは、その月又は週によって支給される賃金については、その1日当りの額を差引いた額を支給すればよい。」として、月極で支払っている通勤手当については日額を算出して、年休取得日に相当する額を控除してもよいとされています。また、同通達では「年次有給休暇日に対し平均賃金を支払い更に月又は週による賃金を全額支払うことも使用者の自由であって、その結果として二重払になっても法律上は勿論差支えない」とされています。
このように通勤手当については、使用者の自由の幅がありますが、いずれにしてもあらかじめ従業員に就業規則等により周知しておくことが肝要です。
(3)まとまった年休取得
年休をまとめて、数十日間にわたって取得する場合はどうでしょうか?たとえば、10日間、1月間、退職時に残りの年休数十日間などです。このように通勤しない日が続く場合も、通勤手当を全額支給するのでしょうか?
そのような特殊な例に対して、予め就業規則等で、「〇〇日以上の連続する年休取得の日に対し、その日数分の通勤手当は支払わない」と明文化することもできます。
※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※
≪参考となる法令・通達など≫
- 労基法12条、39条
- 労基則25条
- 昭23.4.20基発628
- 昭27.9.20基発675
