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■退職代行事業者から伝達された退職の意思についてもろもろ考える

 退職代行サービス事業を行っている事業者から、当社の従業員が「今月末をもって退職する」といった、当該従業員の退職の意思表示を伝達する旨連絡があった。

 退職代行事業者は本人の代理人として法的に有効な行為をしており、本人の意思どおり退職を認める必要があるのか。

 労働契約における「退職」重大な意思決定について、その意思表示を代理により行うことは可能なのか。

 また、従業員との雇用契約が期間を定めたものである場合は、期間途中の退職はできないのではないか。

 退職代行事業者が、弁護士または弁護士法人でない場合は、労働者本人の代理人としてではなく、「使者」として本人の意思表示を伝えることになります。当該退職代行事業者による場合であっても、伝達の内容が本人の意思どおりのものであれば、本人の意思が有効に伝えられたことになります。

 労働者との労働契約が期間の定めのない場合は、退職代行事業者からの伝達があった日から2週間を経過する日に労働契約が終了することになります。

 期間の定めがある労働契約の場合は、やむを得ない事由があるときは、期間の満了前に契約の解除(退職)をすることができます。

 したがって、雇用の期間に定めがあった場合で、退職の意思表示がやむを得ない事由に基づくものではないと判断される場合は、法的には当該退職を拒否することができます。しかし、会社としては、やむを得ない事由の存否を争ってまで退職を認めないこととするメリットがあるか否かについて考える必要があります。例えば、当該社員が雇用契約の期間満了まで勤務しないと、当該社員が担当していた業務が完了せず、かつ、他の者では代替できない等、特殊なケースでない限り、通常は、退職を認めないこととするメリットはないといえます。結局、期間の定めがある雇用契約であっても、退職の意思表示があれば、それを受け入れざるを得ないことになります。

 退職代行事業者を通じて退職の意思表示があった場合は、本人の意思が間違いないものであるか否かを確認すべきです。確認の方法としては、本人からの自筆の退職届を徴求することが確実な方法といえます。

<POINT1.退職代行事業者は本人の代理人か>

 退職代行事業者とは、労働者の依頼を受けて退職の意思表示を所属会社に対し伝えることを業とする者であり、①弁護士(弁護士法人を含む。以下同じ。)が行うものと、②弁護士以外の者が行う場合があります。

 一般に退職代行事業者とは、②の事業者をいいます。

 弁護士の場合は、法律上の代理人として行動することができます。代理人は、本人の代わりに意思表示を行ったり、受けたりする権限を持ちます。退職の意思表示を伝えるだけでなく、本人の意思に反しない範囲で、退職に際し問題となる事項について交渉することができます。例えば、退職日までの欠勤の期間を有給休暇の扱いとすることや、残賃金の支払時期等について交渉することができます。

 他方、弁護士以外の退職代行事業者の場合は、代理人として行動することはできません。弁護士でない者が報酬を得ることを目的として法律事務を行うことは禁止されており(弁護士法72条)、弁護士でない退職代行事業者にできることは、本人の代理人としてではなく、「使者」として本人の意思を伝えることだけです。

 

<POINT2.対処方法について>

(1)期間の定めのない労働契約の場合

 退職代行事業者が「使者」として本人の意思表示を伝えた場合であっても、本人の意思どおりの内容であれば、有効に意思表示が伝えられたことになります。意思表示は、「その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる」とされており(民法97条1項)、期間の定めのない労働契約の場合は、解約の申入れの日から2週間を経過することをもって終了することになります(民法627条1項)。

 したがって、退職代行事業者からの伝達があった日から2週間を経過する日に労働契約が終了したものとして取り扱うことになります。

 伝達された退職予定日が2週間を経過する日の前の日であった場合および2週間を経過する日の後の日であった場合は、当該退職予定日を認めるかどうかは会社側の判断となりますが、いずれの場合も、2週間経過日をもって退職したものとして取り扱って差し支えありません。

 

(2)期間の定めのある労働契約の場合

 雇用の期間が5年を超え、またはその終期が不確定であるときは、当事者の一方は、5年を経過した後、いつでも契約を解除できるとされており(民法626条1項)、使用者が解除しようとするときは3か月前、労働者であるときは2週間前にその予告をしなければならないとされています(民法626条2項)。雇用の期間が5年を超えない場合は、当該規定は適用されません。

 ただし、当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は直ちに契約の解除をすることができるとされています(民法628条)。この場合の雇用の期間について5年超といった基準はありません。

 したがって、雇用の期間に定めがあった場合で、退職の意思表示がやむを得ない事由に基づくものではないと判断される場合は、法的には当該退職を拒否することができます。

 しかし、会社としては、やむを得ない事由の存否を争ってまで退職を認めないこととするメリットがあるか否かについて考える必要があります。例えば、当該従業員が雇用契約の期間満了まで勤務しないと、当該従業員が担当していた業務が完了せず、かつ、他の者では代替できない等、特殊なケースでない限り、通常は、退職を認めないこととするメリットはないといえます。結局、期間の定めがある雇用契約であっても、退職の意思表示があれば、それを受け入れざるを得ないことになります。

 なお、労働契約法第17条は、「使用者は、期間の定めのある労働契約(中略)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」と規定しています。この規定は、使用者がする解雇について規制しているもので、労働者側からの退職の意思表示については何ら規定していません。期間の定めのある労働契約における期間途中の退職については、労働契約法の適用はなく、前述の民法628条の規定が適用されるだけということになります。

 

(3)退職の意思表示の確認

 退職代行事業者からの伝達に基づき退職を認めることは、本人の退職の意思が真実であることが前提になります。出勤しなくなったこととその間に退職代行事業者からの伝達があったことからして、本人の退職の意思が虚偽でないことは推定されますが、退職代行事業者と本人との間の意思疎通に齟齬があった場合等に、退職をめぐってトラブルが生じることも考えられますので、退職代行事業者を通じて退職の意思表示があった場合は、本人の意思が間違いないものであるか否かを確認すると良いのではないかと考えます。

 確認の方法としては、本人からの自筆の退職届を徴求することが確実な方法といえます。本人に連絡が取れる場合は、直接本人に連絡して退職届の郵送等を依頼することになりますが、会社側からの通知、連絡等は退職代行事業者を通じて行うようにしている場合は、退職代行事業者を通じて依頼するしかありません。本人が、退職届の提出を拒み、他に採るべき手段がない場合は、本人の退職の意思は間違いないものとして退職を認めるしかありません。その場合、退職代行事業者からの伝達が文書やメールであった場合は、当該文書やメールを保存しておく必要がありますし、面談や電話の場合は、その際の記録を作成して保存しておくべきです。退職代行事業者が本人との契約書の写しを提供してくれる場合は、当該写しを保存しておくことになります。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※


《参考となる法令・通達など》

  • 民法97条1項、626条、627条1項、628条
  • 労働契約法17条
  • 弁護士法72条