在宅勤務を希望するJを雇い入れた際の労働契約書には、就業場所は、本社としていたが、代表者が口頭で、在宅勤務が基本であると伝えている。
Jが勤務を始めてから半年が経過し、業務遂行状況や勤務態度が好ましくないため出社命令を出した。
ところが、Jは出社命令に応じなかったため、退職処分としたところ、出社命令に応じなかった日以降の賃金の支払を求められた。
当社としては、Jが、出社命令に応じなかった以上、賃金を支払う必要はないと考えるが、そのように取り扱ってよいか。
在宅勤務する従業員の就業場所については、労働契約上、就業場所を原則として自宅とし、業務上の必要がある場合に限って会社事務所への出勤を命じることができると考えられます。
本件において、会社が在宅勤務者に対して行った出社命令から退職処分に至るまでの一連の行為は、必ずしも業務の必要があって行われたものと見ることができず、Aに対してその不就労であった間の賃金を支払わなければならない可能性が極めて高いと考えられます。
<POINT1.在宅勤務とは>
近年、会社事務所に出社しないで自宅で労働を提供する在宅勤務が多く見られます。
この在宅勤務は、会社事務所での勤務に比べて、働く時間を柔軟に活用することができ、労働者にとって仕事と生活の調和を図ることが可能となるといったメリットがあるとされています。
また、使用者にとっても、業務効率化による生産性の向上、遠隔地の優秀な人材の確保、オフィスコストの削減等のメリットがあるとされています。
<POINT2.在宅勤務者の就業場所>
在宅勤務をしている労働者の労働契約上の就業場所については、在宅勤務の意義を踏まえると、労働者の自宅を原則としたうえで、使用者が労働者に出社を求めることができるのは、業務上の必要がある場合に限られると考えられます。
すなわち、使用者は、在宅労働者の勤務状況を把握し、勤務に対する評価を行い、会社の業務を行っていくために必要な場合に限って、会社事務所への出勤を求めることができるものと考えられます。
<POINT3.裁判例>
参考となる裁判例(アイ・ディ・エイチ事件[東京地判令4.11.16])がります。この裁判例は、会社が在宅勤務者に対して出社命令を行ったところ、労働者がこれに従わず就労しなかった場合について、労働契約上、就業場所を原則として労働者の自宅とし、業務上の必要がある場合に限って会社事務所への出勤を求めることができるとした事案です。
判決では、在宅従業員間において通常行われている他の従業員とのメッセージのやりとり(ダイレクトメッセージ機能)の中に、会社代表者を批判する内容があったとしても、そのことから、直ちに在宅勤務者に出社を命じる業務上の必要があったとは認められないとし、出社を命じられた在宅労働者が就労しなかったときには、その不就労は会社の責めに帰すべき事由によるものであるので(民法536条2項)、在宅労働者は就労しなかった間の賃金を請求することができるとしました。
<まとめ>
在宅勤務を円滑かつ適切に制度として導入し、実施するに当たっては、予め労使で十分に話し合い、ルールを定めておくことが重要でしょう。
特に在宅労働者の行動面や勤務意欲、態度等を評価する会社として、評価対象となる具体的な行動等の内容や評価の方法をできる限り見える化し、予め示すことが大切です。
※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※
≪参考となる法令・通達など≫
- 民法536条2項
- アイ・ディ・エイチ事件[東京地判令4.11.16]
- テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン(令和3年厚生労働省)
