社内でトラブルを起こす従業員に対して、退職勧奨を行うことを検討している。
退職勧奨にあたり、出勤してトラブルを起こすことを避けるため、退職日まで自宅待機を命じることはできるのか。
また自宅待機期間中の賃金はどのように考えればよいか。
退職勧奨に応じないことが明らかであるにもかかわらず、退職することを前提に長期間の自宅待機を命じ、その間、労働者の職場復帰等について何ら判断を示さないような場合については、自宅待機期間中に退職勧奨が継続しており、当該退職勧奨は違法であって不法行為にあたるとされる場合があります。
自宅待機期間中の賃金については、民法第536条第2項により、賃金の全額について請求権は失われないことになります。
<POINT1.退職勧奨と自宅待機>
労働者に退職勧奨に応じる意思があり、退職日についても合意がされる場合は、退職勧奨を行った日または退職を受け入れた日から退職日までの間を自宅待機とすることについて問題はありません。
問題が生じるのは、労働者に退職勧奨に応じる意思がないにもかかわらず長期間の自宅待機とし、その間、労働者の処遇に関する明確な措置が講じられないような場合です。参考となる裁判例として、みずほ銀行事件[東京地判令6.4.24]があります。
同事件では、他の従業員に対する言動等に問題があり、改善が認められないとする従業員(原告)に対し退職勧奨を実施し、その後自宅待機を命じ、当該自宅待機は出社命令が発せられるまでの間、約4年半におよんでおり、このような長期間の自宅待機命令は、実質的にみて、退職勧奨が続いていたというべきであり、原告に退職以外の選択肢を与えない状態を続けていたもので、社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨であったとして、不法行為の成立を認め、会社(被告)に対し、原告に対する慰謝料の支払を命じています。
また、判決では、原告が自宅待機命令後の面談において職場復帰を明確に求めた時点以降は、原告に退職の意思はないものとして、復帰先について具体的な調整をすべきであったとしています。
退職勧奨に応じない従業員に対し、配置転換をする必要があるのであれば、配置転換先を決定し配転命令を出す等の措置を講じるべきであり、漫然と自宅待機を継続させることは、違法な退職勧奨が継続しているとみられることになります。
同事件では、被告が原告に対し就労を継続する意思の有無および就労可能性について回答を求め、これに対し原告が回答しなかったことに対する服務規律違反としての厳重注意、出社を求めたにもかかわらず欠勤(自宅待機)を続けたこと等に対する服務規律違反としての譴責処分、正式の出社命令が出されたにもかかわらず欠勤を続けたこと等に対する服務規律違反としての出勤停止処分の懲戒処分がなされていますが、いずれも原告が被告の指示に従えない正当な理由がないにもかかわらず従わなかったものであり、被告の就業規則に規定する懲戒事由に該当する有効な懲戒処分としています。
また、原告の業務命令違反等を理由として最終的には懲戒解雇としていますが、当該解雇は、懲戒解雇として客観的に合理的な理由を欠いておらず、社会通念上相当であると認められ、有効であるとしています。同事件の判決は、懲戒処分および懲戒解雇をともに有効とする一方、長期の自宅待機命令については、違法な退職勧奨として不法行為が成立するとしたものです。
その他、退職勧奨について判断した裁判例として、原告が退職勧奨に応じる見込みはなかったにもかかわらず、退職以外の選択肢がないかのような心理的圧力を加え、原告を掃除等の担当とする配転命令を行い、かつ、原告をサポートする人は会社に一人もいないなど原告の名誉感情をいたずらに傷つける言動を繰り返したことについて、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した違法な退職勧奨であるとしたもの(メドエルジャパン事件[東京地判令5.4.28])、複数回にわたり退職勧奨を行い、その際、勧奨に応じない場合の不利益(他部への異動の可能性)と応じた場合の利益(退職金の上乗せ)を示した事案について、退職勧奨の不法行為性を否定したもの(リコー(子会社出向)事件[東京地判平25.11.12])があります。
<POINT2.自宅待機期間中の賃金>
会社が自宅待機を命令しているものであり、債権者(会社)の責めに帰すべき事由によって債務(労働の提供)を履行することができなくなったときに該当し(民法536条2項)、労働者は、賃金の全額の支払について請求権があります。また、労働基準法第26条は、使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は休業期間中当該労働者に、平均賃金の6割以上の休業手当を支払わなければならないことを規定しており、平均賃金の6割以上の額については、刑事罰を背景として支払いを強制しています。
前記みずほ銀行事件判決は、自宅待機命令前の年収が千数百万円であったところ、自宅待機期間中の年収が約820万円になり、約300万円の損害を被ったとする原告の主張に対し、原告の勤務状況には問題があり、その結果退職勧奨に至ったといえるから、自宅待機命令がなく出社したとしても被告から従前と同様の人事考課を受け、従前と同様の千数百万円の年収を得ていた蓋然性が高いと認めることはできず、原告には逸失利益は認められないとしています。原告の主張が、民法第536条第2項に基づく賃金の支払ではなく、不法行為による逸失利益の賠償を求めたものであり、民法第536条第2項は論点になっていませんが、判決の指摘を踏まえると、支払われるべき賃金は全額支払われていることになります。
※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※
《参考となる法令・通達など》
- リコー(子会社出向)事件[東京地判平25.11.12]
- メドエルジャパン事件[東京地判令5.4.28]
- みずほ銀行事件[東京地判令6.4.24]
