建設業を営む当社は、夏季に屋外での作業を行う際、熱中症予防のために日中の気温が高い時間帯に作業を中断させている。
しかし、その中断時間について「労働時間として賃金を支払うべきなのか」、「それとも休憩時間として扱うことができるのか」判断に迷っている。
特に、天候の変化などでWBGT値が下がった場合にすぐ作業を再開できるよう待機させている場合や、完全に休憩として自由に利用させている場合など、状況によって取扱いが異なるのではないかと考えているが、このような熱中症対策による作業中断時間は、労働時間にあたるのか。
熱中症対策のために、一定の時間、作業を中止する場合、その間に天候の変化などによってWBGT値の低下があった場合には、直ちに作業を再開できるよう労働者を待機させている場合、その時間はいわゆる手待時間として労働時間に該当します。
他方、その間は、昼休みなどの休み時間と同等程度に労働者が自由に利用することができ、仮にWBGT値が下がったとしても、あらかじめ定められた休憩時間中は作業を再開する趣旨のものではなく、使用者から作業に復帰するよう指示を受けることもなく労働から完全に解放され、労働者が権利として労働から離れることを保障されている場合には、休憩時間であるとして労働時間に該当しません。
<POINT1.熱中症予防基本対策>
厚生労働省が策定した「職場における熱中症予防基本対策要綱」の第1に「WBGT値(暑さ指数)の活用」が掲げられており、特に、事前にWBGT(湿球黒球温度)値がWBGT基準値を超えることが予想される場合は、WBGT値を作業中に測定するよう努めることとされ、さらに、把握したWBGT値がWBGT基準値を超え、または超えるおそれのある場合には、
- 冷房等により当該作業場所のWBGT値の低減を図ること
- 身体作業強度(代謝率レベル)の低い作業に変更すること
- WBGT基準値より低いWBGT値である作業場所での作業に変更すること等の熱中症予防対策を作業の状況等に応じて実施するよう努めること
とされています。
それでもなお、WBGT基準値を超え、または超えるおそれのある場合には、第2の「熱中症予防対策」の徹底を図り、熱中症の発症リスクの低減を図ることとされています。
<POINT2.熱中症予防対策>
その熱中症予防対策としては、
- 作業環境管理(WBGT値の低減、休憩場所の整備等)
- 作業管理(作業時間の短縮、暑熱順化、水分・塩分の摂取、服装、作業中の巡視、連絡体制の整備等)
- 健康管理(健康診断結果に基づく対応、日常の健康管理、労働者の健康状態の確認、身体の状況の確認等)
- 労働衛生教育
- 救急処置(緊急連絡網の作成・周知、救急措置)
が掲げられています。
<POINT3.事業者が講ずべき措置>
上記の作業管理のうち「連絡体制の整備」について、「熱中症を生ずるおそれのある作業」を行わせるときは、労働安全衛生規則612条の2第1項の規定に基づき、その作業に従事する者に熱中症の自覚症状のある場合や、その作業に従事する者に熱中症が生じた疑いがあることをその作業に従事する他の者が発見した場合にその旨を報告させるための体制を整備し、関係者に周知することとされています。
「熱中症を生ずるおそれのある作業」とは、WBGT28度以上または気温31度以上の作業場において行われる作業で、継続して1時間以上または1日あたり4時間を超えて行われることが見込まれるものをいいます。
また、上記の「救急処置」についても、「熱中症を生ずるおそれのある作業」を行わせるときは、労働安全衛生規則612条の2第2項の規定に基づき、熱中症の悪化の防止に必要な以下の措置の内容とその実施手順をあらかじめ定め、関係者に周知しなければならないとされています。
①緊急連絡網の作成・周知
労働者を高温多湿作業場所(WBGT基準値を超え、または超えるおそれのある作業場所)において作業に従事させる場合には、労働者の熱中症の発症に備え、あらかじめ、病院、診療所等の所在地および連絡先を把握するとともに、緊急連絡網を作成し、関係者に周知すること。
②救急措置
熱中症を疑わせる症状が現れた場合には、救急処置として涼しい場所で身体を冷やし、水分および塩分の摂取等を行うこと。また、必要に応じ、救急隊を要請し、または医師の診察を受けさせること。
<POINT4.作業の休止時間は労働時間か>
上記の作業管理のうち「作業時間の短縮」については、作業の休止時間および休憩時間を確保し、高温多湿作業場所での作業を連続して行う時間を短縮すること、身体作業強度(代謝率レベル)が高い作業を避けること、作業場所を変更すること等の熱中症予防対策を作業の状況等に応じて実施するよう努めることとされています。
この作業の休止時間の取扱いに関して、労働時間とは、使用者の指揮命令下にある時間のことであり、待機時間については、「使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)は、労働時間にあたる。」と解されています。
このため、たとえば、12:00~15:00の間に熱中症対策のために作業をいったん中止すると決めた場合、
- その間に天候の変化などによってWBGT値の低下があった場合には、直ちに作業を再開できるよう労働者を待機させている場合、その時間は労働時間に該当します。
- その間は、昼休みなどの休み時間と同等程度に労働者が自由に利用することができ、仮にWBGT値が下がったとしても、あらかじめ定められた休憩時間中は作業を再開する趣旨のものではなく、使用者から作業に復帰するよう指示を受けることもなく労働から完全に解放され、労働者が権利として労働から離れることを保障されている場合には、休憩時間であるとして労働時間に該当しません。
なお、作業を中止することとした時間を休憩時間と取り扱う場合には、労働者の1日の拘束時間が長時間に及ぶことのないよう留意することが望ましいとされています。
作業を中断している時間を休憩時間とした場合についても、労使の話合い等によって、この時間に対する手当を労働者に支払うこととしても差し支えありませんが、手当を支払った時間を手待時間として扱った場合には、労働時間となるとされています。
また、夏季に実施する工事については、熱中症予防のために休憩時間が長く設定される場合があることを考慮した適正な工期の設定や、労働者に適切な賃金や手当が支払われることに配慮して労務費などの価格の設定が行われるよう、発注、受注に当たって留意することが必要であるとされています。
※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※
≪参考となる法令・通達など≫
- 安衛則612条の2
- 令3.4.20基発0420第3
- 令7.5.20基発0520第6
- 厚生労働省「建設業の時間外労働の上限規制に関するQ&A」(令和7年6月19日追補分)
- 三菱重工業長崎造船所事件 最判平12.3.9判時1709・122
≪WBGT値とは≫
WBGT(湿球黒球温度/Wet Bulb Globe Temperature)とは、熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標で、 単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されますが、その値は気温とは異なるとのこと。
暑さ指数(WBGT)は人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい
- 湿度
- 日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境
- 気温
の3つを取り入れた指標です。
