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■従業員がタイムカードの開示を求めてきたら開示しなければならないか確認する。

 当社で勤務している元従業員Aの勤務態度が不良なため、解雇予告を行い、タイムカードを取り上げた。

 従業員からは未払残業代の支払いを求められ、未払残業代の根拠として取り上げられたタイムカードの開示を請求された。

 当社としては開示に応じなければならないか。

 タイムカードは、労働者自身が出社時および退社時にその時間を機械式(タイムレコーダー等)に打刻されるカードであり、労働者の労働時間の始業・終業を示す客観的な書類になります。

 使用者は、原則として、これにより労働時間を適正に把握し、割増賃金等を支払うことになります。また、タイムカードは労働時間の客観的な証拠であるため、労働者と使用者の割増賃金等に関する紛争の発生を未然に防止し、または生じた紛争の早期解決を図るためにも重要となります。

 したがって、タイムカードを労働時間管理に利用して、労働者からタイムカードの開示を求められた場合は、使用者は容易に開示できることから、トラブルを早期解決するために開示することがベターと考えられます。

<POINT1.労働時間とは>

 労働基準法(「労基法」)第15条においては、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間等の労働条件を明示することを義務づけています。また、労働時間について明示する事項としては、始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無(残業)、休憩時間、休日、休暇等について書面による明示を定めています。この始業時刻から終業時刻までの時間を拘束時間とよばれ、拘束時間から休憩時間を除いた時間を所定労働時間とされています。

 労働時間については、労基法第32条において、休憩時間を除き、1週40時間、1日8時間の原則的時間が規定されています。これを法定労働時間といい、使用者はこの法定労働時間を超えて労働させてはならないとされています。したがって、同法では、休憩時間を除いた、実際に働かせる実働時間を規制の対象としています。

 裁判例においても、労働時間の定義は「労働時間とは、使用者の指揮命令下で、労働力を提供した時間をいうとされ、労働契約、就業規則等の定めのいかんにより決定されない」と判断しています(三菱重工業長崎造船所事件[最判平12.3.9])。

 また、労基法第34条では、休憩時間は自由に利用させなければならないと定めています。これは、労働者の権利として労働から離れることを保障されていなければならないとされています。したがって、実際に業務に従事していない場合でも、待機している時間や手待ち時間、来客当番なども、使用者の指揮命令下にある場合は、労働時間となることになります。ビルの管理会社の労働者の仮眠時間(不活動時間)についての裁判例においても、「労働からの解放が保障されていない限り、休憩時間には該当しないもので労働時間に当たる」と判断しており(大星ビル管理事件[最判平14.2.28])、時間的・場所的拘束が認められれば、労働時間と認められることになります。

 

<POINT2.割割増賃金(残業代)の支払い>

 労基法第37条では、法定労働時間を超える時間、法定休日または深夜に労働させた場合においては、その時間またはその日の労働に対して、割増賃金の支払いを義務づけています。残業の割増賃金については、通常の賃金に加えて支給されるべきものであり、その割増率は時間外労働については2割5分以上となっています。

 また、所定労働時間を超えるものの、法定労働時間を超えない時間外労働(いわゆる法定内残業)については、労基法上は、割増賃金の支払いは不要となっています。ただし、就業規則等で法定内残業についても、割増賃金を支払う旨を定めている場合は支払いが必要になります。

なお、法定労働時間制の適用の例外として、事業場外労働・裁量労働のみなし労働時間制や変形労働時間制、管理監督者などがありますので注意が必要です。

 

<POINT3.タイムカード等による時間管理>

 労働時間を管理する義務は、上記のように使用者が労基法の規定に違反をしないようにするために、また労働者の安全衛生を確保するために、労働契約上使用者に必然的にあるとされています。

また、労働時間を把握する方法については、平成13年の行政通達「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」において、原則として、使用者が自ら現認するか、タイムカード、ICカード等の客観的な手法で行うこととされています。この基準では、使用者に労働時間を適正に把握し・管理する責務があることを明確にしています。

 なお、このタイムカードは、労基法第109条による賃金その他労働関係に関する重要な書類に該当すると行政解釈されており、5年間(※)の保存義務がある書類になります。

 お題のように、タイムカードによって労働時間を管理しているが、解雇予告した労働者から未払いの残業代があるとし、その証拠としてタイムカードの開示を求められることもあります。タイムカードは、労働者の始業・終業時刻を記録したものであり、残業代の計算や請求にとっては重要な証拠物であることから、一般的には対象労働者から開示要求があった場合は誠実に開示するべきものです。

 なお、タイムカードの開示に関する裁判例では、使用者には労働契約の付随義務として、タイムカードの打刻を適正に行わせる義務を負っているだけではなく、開示を求められた場合には、特段の事情がない限り、開示すべき義務を負うとしています(医療法人大生会事件[大阪地判平22.7.15])

 

※関係文書等の保存期間については、令和2年労基法改正により従来の3年間が5年間と変更されています。ただし、当分の間は従来通り3年間です。

 

<POINT4.まとめ>

 お題のケースについて、今後の事務処理を考慮しますと、開示しない場合には、労働者が法的な措置を取ることや、労働基準監督署(「労基署」)に申告することも考えられ、その場合の弁護士の費用、裁判所に対応する手間がかかることや、労基署の対応等も必要になる場合が考えられますので、開示することが最良と思われます。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※


≪参考となる法令・通達など≫

  • 労基法15条、32条、34条、37条、104条、108条、109条
  • 労基則5条、54条
  • 昭23.4.7基収1196
  • 昭33.10.11基収6286
  • 昭63.3.14基発150
  • 平11.1.29基発45
  • 平11.3.31基発168
  • 平13.4.6基発339
  • 平29.1.20「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
  • 三菱重工業長崎造船所事件[最判平12.3.9]
  • 大星ビル管理事件[最判平14.2.28]
  • 京都福田事件[大阪高判平元.2.21]
  • 医療法人大生会事件[大阪地判平22.7.15]