先日、ある従業員が半日年休(4時間)を取得し、午後から就業時間をこえて午後7時まで6時間の労働を
した。このような場合、年休4時間を労働時間とみなし、1日の法定労働時間をこえる2時間については時間外労働として割増賃金を払う必要があるのか。
法定労働時間をこえて働かせた場合、使用者は割増賃金を支払わなければなりませんが、この場合の労働時間は実際に働かせた時間のことを指します。
賃金が支払われた時間でも労働基準法上の労働時間とはいえないケースはあり、年次有給休暇は法律によって不就労日(時間)に賃金の支払いを義務づけられているものと考えられます。
したがって、お題の場合には、年次有給休暇を取得した時間について、労働時間として取り扱う必要はなく、就業時間をこえた2時間分については割増賃金を支払う必要はありません。
<POINT1.割増賃金を支払わなければならない時間外労働>
労働基準法第37条第1項は、使用者が労働者に法定の労働時間をこえて労働させた場合には、「通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が1か月について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない」とし、この率については、割増賃金令が、時間外労働においては2割5分以上、休日労働においては3割5分以上の率と規定しています。
1か月について60時間をこえた場合に、同法第37条第3項の代替休暇を付与するときは、労使協定の定めるところにより2割5分以上の割増率で計算した割増賃金を支払う必要があります。
(1)法定労働時間と時間外労働
労働基準法上割増賃金の対象となる時間外労働は、原則として、法定労働時間をこえる場合であり、法定労働時間は1週40時間、1日8時間(特例措置対象事業場については週44時間)ですので、それをこえて労働させた場合には、そのこえた時間の労働に対し、割増賃金を支払わなければなりません。
(2)時間外労働の具体例
所定労働時間が1日7時間の場合、3時間の残業を行わせたときには、3時間の残業も含めて実働10時間となりますので、1時間の残業については、特段の定めがない限り通常の労働時間の賃金を支払えば足り、割増賃金を支払う必要はありませんが、残りの2時間の残業については、割増賃金を支払わなければならないことになります。
<POINT2.年次有給休暇>
労働者は、毎週1回の休日をとって休養するのみならず、継続的に一定期間の休暇をとって心身の休養を図ることが、労働力の維持培養を図るために必要ですが、この休暇は、労働者の所得の減少と生活条件の悪化を防ぐために有給である必要があります。
労働基準法第39条は、年次有給休暇について、「使用者は、その雇入れの日から起算して6か月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない」とし、さらに、以下のように定めています。
「使用者は、1年6か月以上継続勤務した労働者に対しては、雇入れの日から起算して6か月を超えて継続勤務する日(以下「6か月経過日」という。)から起算した継続勤務年数1年ごとに、前項の日数に、次の表の上欄〔左欄〕に掲げる6か月経過日から起算した継続勤務年数の区分に応じ同表の下欄〔右欄〕に掲げる労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。ただし、継続勤務した期間を6か月経過日から1年ごとに区分した各期間(最後に1年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日の前日の属する期間において出勤した日数が全労働日の8割未満である者に対しては、当該初日以後の1年間においては有給休暇を与えることを要しない」
<POINT3.働き方改革による年休の確実取得制度>
平成30年、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」により労働基準法等の改正(平30改正労基法)が行われ、長時間労働の是正年次有給休暇の取得促進などの労働時間の規制にかかる関係条文が大幅に改正されました。
特に年次有給休暇については、年次有給休暇の取得促進のため使用者による「年休の確実な取得のための時季指定」制度が創設され、平成31年4月1日から施行されています(違反には罰則が適用)。
すなわち、年次有給休暇の取得については、労働者本人の請求によることが原則ですが、今回の改正により年休の利用促進として使用者が時季を指定して消化させることができるとされました。つまり、平30改正労基法第39条第7項では、年10日以上の年休付与対象者に対し、付与後1年以内に、使用者が少なくとも5日の時季を指定し、当該労働者の意見を聴いて、年休を利用させることができるとされました。
但し、労働者本人が5日以上の年休を消化している場合や、計画年休により年休の消化が予定されている場合は必要ないとされています。つまり、5日以上の年休を確実に利用する方策を法定化したものです。
なお、「年10日以上」とは、法定付与日数をいい、繰越日数は含みません。
行政通達において、半日単位による付与については、年次有給休暇の取得促進の観点から、従来からの取扱いに変更はないものであるとし、その日数は0.5日として取り扱うと明記しています。
また、事務として、①「年次有給休暇管理簿」を調整して、実際に労働者が年次有給休暇を取得した日数(半日単位で取得した回数および時間単位で取得した時間数を含みます。)を記載する必要があり、②就業規則には、この時季指定年次有給休暇の対象となる労働者の範囲および時季指定の方法等について記載する必要があります。
お題のように半日単位の年休の場合でも、まったくの労働義務免除の時間・日ですので、年休取得促進の観点から積極的な利用が期待されます。
<POINT4.実労働時間主義>
法定労働時間をこえて働かせた場合、使用者は割増賃金を支払わなければなりませんが、この場合の労働は実際に働かせた時間のことを指します。
一般に賃金は労働時間の対価と考えられているため、有給を義務づけられている年次有給休暇を労働したものとみなす必要があるのではないか、との疑問が生じ得ますが、フレックスタイム制の場合以外は、労働時間として取り扱う必要はありません。
年休は法律によって不就労日(時間)に賃金の支払いを義務づけられているものと考えられるからです。なお、精・皆勤手当などの算定にあたって年休取得日を欠勤扱いすることは違法となりますが、これはそうすると年休取得を抑制することになるとの考えにもとづくものです。
<POINT5.フレックスタイム制>
フレックスタイム制の場合、当該制度は所定労働時間(契約時間)働くことを前提とした制度ですから、年休を労働時間とみなさなければ、労働時間の借りとして次期に上乗せして働かなければならないという場合も生じ得ます。要するに、フレックスタイム制では、その制度の特殊性のゆえに、精・皆勤手当などの算定における不利益扱いの禁止だけでは年休取得への抑制効果を防止できず、実際の労働時間の算定でも年休を労働したものとみなす必要があるわけです。
フレックスタイム制では、「標準労働時間」について労使協定を締結することが義務づけられており、年休を取得した場合には、「当該日に標準となる1日の労働時間労働したものとして取り扱うこと」とされていますが、これは労働時間制度の特性にもとづく特別の措置と理解されます。逆にいえば、フレックスタイム制以外の場合には、原則どおり、年休を労働時間として取り扱う必要はありません。
ちなみに、解釈例規では、フレックスタイム制のもとで年度有給休暇を取得した場合には、労使間でのフレックスタイム制協定で定めた「標準となる1日の労働時間」の時間数を労働したものとして取り扱うこととされていることから、賃金精算にあたっては、実労働時間に「年次有給休暇を取得した日数×標準となる1日の労働時間」を加えて計算する、とされています。
※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※
《参考となる法令・通達など》
- 労基法32条の3、37条、39条、附則136条
- 割増賃金令
- 労基則19条の2、24条の5、25条の2
- 昭63.1.1基発1
- 平30.9.7基発0907第1
