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■定額残業代の残業見込み時間を数年単位で変更することができるか確認する。

 当社では、定額残業代制度を採用しており、月30時間に相当する金額を定額残業代として支給している。

 しかし、ここ数年で、残業時間が月30時間を超過することが多く、年度によっても超過時間が変化しているので、今後数年単位で残業の見込み時間を見直したいと考えている。この場合、残業の見込み時間を数年単位で変更しても法的に問題はないか。

 労働基準法では、時間外労働等を行わせた場合、使用者は割増賃金を支払うことを義務づけられており、その計算方法も規定されています。

 一方、定額残業代制度は、時間外労働に対する割増賃金を、毎月定額で割増賃金に代えて支払う制度といわれています。この制度は、法令と異なる計算方法でありますが、これについての行政解釈は、実際に支払われた割増賃金が、同法において支払うべき割増賃金額を下廻らない場合には、違法ではないと解されています。

 また、この制度の適正運用については、判例により、割増賃金の部分とそれ以外の賃金部分が明確に区分されていることと、法所定の計算額が上回る場合にはその差額を支払うことが求められています(小里機材事件[最判昭63.7.14])。

 そこで、定額残業代の見込み時間、定額代を、残業時間の実績に応じて、一方的に変更できるかどうかということになります。これについては、これまで定額で支給されていることから、減額する場合は、労働条件の不利益な変更に該当することになり、一方的な変更はできないと考えられます。

 したがって、賃金の増額や減額をする場合には、労働者に十分説明し、合意を得た上で、就業規則等を変更することにより行うことが必要になります。

<POINT1.割増賃金の計算方法>

 割増賃金制度の目的は、「時間外労働及び休日労働に対する割増賃金の支払いは、通常の労働時間と違うこれら特別の労働に対する労働者への補償を行うとともに、使用者に対し経済的に負担を課すことによってこれら労働を抑制することを目的とする」と解されています。

 そこで、時間外労働、休日労働、深夜労働を行わせた場合、労働基準法により、その時間またはその日の労働については、通常の労働時間または労働日の賃金に法定の割増率を乗じた割増賃金を支払うことを義務づけられています。

 また、通常の労働時間の賃金の計算方法についても、時間給や月給などの賃金の支払い形態ごとに法令上決められていますし、家族手当や通勤手当のほか、割増賃金の基礎から除外される手当(賃金)についても具体的に定められています。

 つまり、割増賃金は、法令により計算方法が決められており、罰則を持って支払いを義務づけられているものなのです。

 

<POINT2.定額残業代制度の法的性格>

 お題の場合、定額残業代制度を採用し、月30時間に相当する金額を定額残業代として支払っているとのことですが、これは時間外割増賃金を一定額で支払うということになり、法所定の計算方法ではない方法で支払っていることになります。

 割増賃金については、先の説明のとおり法律で支払い方法が具体的に定められており、それ以外の支払い方法が認められるかどうかになります。

 割増賃金の定額払いについては、判例、行政解釈において、実際に支払われる割増賃金の額が法定の計算による割増賃金額を下回らない限り、法違反とならないと解されています。

 また、定額残業代が有効となるためには、判例において、

①就業規則等に明示(労使の合意)され、

②割増賃金の部分とそれ以外の賃金部分とが明確に区分され、

③法定額を上回った場合には差額を支払うことが合意されていること

が必要とされています(小里機材事件[最判昭63.7.14])。

 また、その後の判例においては、通常の労働時間の賃金と割増賃金にあたる部分が明確であることのほか、

①定額残業代の金額および時間数が合意されていること、

②実際の時間外労働の時間数が明確であること、

③別途差額支払いの実績があること

が求められています(テックジャパン事件[最判平24.3.8])

 したがって、実際の時間外労働が、月30時間をこえた場合にはその都度不足分を支払う必要があることになりますが、こえなかった場合であっても減額せずに定額残業代を支払うことになります。

 

<POINT3.定額残業代の留意点>

 定額残業代制度は適正に運用されれば違法ではありませんが、現実的には労働者ごとや時期によって異なる時間外労働を一定額で支払うことであり、事業に繁閑がある企業においては問題が生じることになります。その一つが、定額残業代が、実際の時間外労働の時間との間に大きな差が出ている場合です。したがって、常態的に格差が生じることになれば、当然、定額残業代の時間数の変更という問題が生じてきます。

 しかし、定額残業代は割増賃金の支払いについて、実際の時間外労働ではなく定額で支払う制度であることから、一方的に賃金額を減額変更することは、労働条件の不利益変更にあたるためできないことになります。

 また、時間外労働の時間数を増やす場合でも、過労死ラインである月の時間外労働が80時間や100時間をこえないようにするなどの長時間労働の抑制や労働者の健康配慮が必要になります。

 したがって、定額残業代制度を導入している企業では、労働時間をしっかり管理し、見込み時間をこえないようにすることが肝要です。この定額残業代を変更するには、労働者の合意を得た上で、就業規則を変更することが必要になります。また、就業規則を一方的に変更する場合は、その変更が合理的なものであることが求められます(第四銀行事件[最判平9.2.28])。

 なお、あらかじめ定額残業代の見込み時間の変更方法について、就業規則に具体的に明示され、労働契約となっている場合は、それに従って変更することは問題ないといえます。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※


《参考となる法令・通達など》

  • 労基法37条
  • 労基則19条、21条
  • 労契法8条、9条、10条
  • 昭22.9.13発基17
  • 昭24.1.28基収3947
  • 平6.1.4基発1
  • 小里機材事件[最判昭63.7.14]
  • テックジャパン事件[最判平24.3.8]
  • 第四銀行事件[最判平9.2.28]