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■従業員が賃金の受取りを拒否したときについて確認する

 当社では、現在ある従業員と解雇について争っており、また、この従業員は賃金の受領を拒否している。

 労働基準法の直接払いの原則との関係で、当社はどのようにしたらよいか。

 「直接払いの原則」は、例外は認められておらず、いかなる場合でも労働者本人に直接賃金を支払わなければなりません。

 しかしながら、労働基準法第24条は、所定の賃金支払日に賃金全額を労働者に受領させることを目的としている規定ではありますが、お題の場合のように使用者が賃金の支払いを準備しているにもかかわらず労働者がその受領を拒否しているために賃金を支払えないような場合においてまで、何らかの方法により労働者に賃金を受領させることまでをも使用者に対し義務づけているとは解されません。

 したがって、お題のようなケースは、労働基準法第24条違反とは考えられませんが、民事上は労働者が賃金を受領しない限り貴社には依然として賃金を支払う義務が残ることとなります。

そこで、貴社の賃金債務までも消滅させるためには、供託をするという方法が考えられます。

<POINT1.未直接払いの原則>

 労働基準法第24条による「直接払いの原則」は、賃金は直接労働者に支払わなければならず、労働者本人以外の者に賃金を支払うことを禁じたものです。これは、親方や職業仲介人が労働者に代わって賃金を受け取ることにより、中間搾取が行われる、親権者が年少労働者の賃金を取り去るなどの旧来の弊害を除去し、労働者が、自己の労働の対価である賃金を確実に受け取れるようにしたものです。

 ILO第95号条約においても、「賃金は、国内の法令、労働協約若しくは仲裁裁定に別段の規定がある場合又は関係労働者の同意がある場合を除くほか、関係労働者に直接支払わなければならない」(第5条)と規定されています。

 この原則は、親権者または後見人は未成年者の賃金を代わって受け取ってはならないという労働基準法第59条の規定とともに、民法の委任、代理などの規定の特則を規定したものです。したがって、労働者の親権者やその他の法定代理人に賃金を支払うこと、労働者の委任を受けた任意代理人に賃金を支払うことは禁じられています。その結果、労働者が第三者に賃金の受領権限を与えようとする代理、委任などの法律行為は無効です。

 「直接払いの原則」は、通貨払いの原則や全額払いの原則とは異なり、例外は認められていません。そのため、いかなる場合でも労働者本人に直接賃金を支払わなければなりません。

 したがって、18歳未満の労働者、すなわち民法でいう未成年の労働者も、独立して賃金を請求できる権利が与えられており、その親権者や後見人の代理受領も禁じられていますので、成人と何ら異なるところはありません。ただし、本人に支払うのと同一の効果を生ずると認められるような使者に対して賃金を支払うことは、さしつかえないものとされています。

 

<POINT2.直接払い違反の民事上の効果>

 直接払いの原則に違反して本人の代理人などに賃金を支払った場合には、使用者は、他の原則の違反と同様に刑事責任を負わなければなりませんが、その支払いそのものの民事的効果は次のように解されます。

① 代理受領者が労働者本人に賃金を渡したときは、「受領権者以外の者に対してした弁済は、債権者がこれによって利益を受けた限度においてのみ、効力を有する。」とする民法第479条により、労働者が現実に利益を受けた限度で民事上有効な弁済になりますので、使用者は、その限度で二重払いをする必要はありません。

② 代理受領者が労働者本人に賃金を手渡さないで着服したときは、その賃金の支払いは、民法第493条の「債務の本旨に従」った弁済ではなく、無効ですから、使用者は、労働者本人から請求があれば、二重払いに応じなければなりません。ただし、使用者は、代理受領者に不当利得の返還を請求できます。

 

<POINT3.賃金の一括払い>

 賃金支払いの手数を省くため、何人かの労働者から委任を受けた者に一括して賃金を支払うことは、直接払いの原則から許されません。

 しかし、この原則は、事業主が直接労働者個々人に賃金を手渡すことを要求しているものではありませんから、事業主のために会計担当の者に賃金を手渡させることは、この原則に違反するものではありません。

 

<POINT4.賃金の受領拒否>

 労働基準法第24条の「直接払いの原則」は、所定の賃金支払日に賃金全額を労働者に受領させることを目的としているものではありますが、使用者が賃金の支払いを準備しているにもかかわらず労働者がその受領を拒否しているために賃金を支払えないような場合においてまで、何らかの方法により労働者に賃金を受領させることまでも使用者に対し義務づけているとは解されません。

 民法上も、債務者(使用者)の責任は、債務の本旨に従った弁済の提供をしておけば、その提供のときから債務の不履行による一切の責任を免れることになると解されています。この場合、どの程度の提供がなされる必要があるかという点について、行政解釈は、「賃金その他の債務が支払われるのと同様の状態において労働者が受け取り得る状態に置かれていること、すなわちいわゆる現実の提供がなされれば、労働基準法上の支払いがあったと同様の効果が生ずるものと解される」としています。

 以上のような債務の本旨に従った弁済の提供をしていれば労働基準法第24条違反とはなりませんが、民事上は、労働者が賃金を受領しない限り使用者には賃金を支払う義務が依然として残ることとなります。このような場合、債務までも消滅させるためには、供託をするという方法が考えられます。供託とは、債権者(労働者)が弁済を受領しないなどの場合に、弁済の目的物(賃金)を債権者のために供託所に寄託して債務を免れる制度です。また、供託することにより、労働者は供託所に対して供託物の交付を請求する権利を取得することになります。

 

<POINT5.賃金などの時効>

 労働基準法第115条において賃金の消滅時効について「この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から5年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から2年間」と規定されています。

 ただし、賃金の請求権にかかる5年間については、諸般の事情により同法第143条において「当分の間、5年間とあるのは3年間とする」とされました。

 同条により賃金関係について、

①第109条(記録の保存:3年間)

②第114条(付加金の支払い:3年間)

③第115条(賃金:3年間、退職金5年間)

とされ、その他の各種請求権にかかる時効期間については、たとえば年次有給休暇請求(第39条)や災害補償その他の請求権は従来どおり2年間となります。なお、「当分の間」については、改正法の施行から5年経過後の状況を勘案して、判断されることとされています。

 

<POINT6.派遣労働者に対する賃金支払い>

 労働者派遣法にもとづき派遣中の労働者の賃金を派遣先の使用者を通じて支払うことは、派遣先の使用者が派遣中の労働者本人に対して派遣元の使用者からの賃金を手渡すことだけであれば、直接払いの原則には違反しないと解されます。

※当記事作成日時点での法令に基づく内容となっております※


≪参考となる法令・通達など≫

  • 労基法24条、59条、115条、143条
  • 民法4条、479条、492条、493条
  • 昭61.6.6基発333
  • 昭63.3.14基収150・婦発47